牡蠣が縮むのはなぜか。
せっかくふっくら大ぶりの牡蠣が手に入ったのに調理する途中で見事なまでに小さくしぼんでしまう。あるいは鍋に牡蠣を入れたはずなのに、いつのまにか縮んでしまってどこにあるのかもわからなくなってしまう。このような悲しい経験、誰しもが一度は経験しているでしょう。
調理時に牡蠣が縮んでしまう、というのは基本的には加熱を過剰にしすぎた結果です。簡単に言うと、長時間煮込んだせいで牡蠣の中のエキスや水分が出ていってしまうわけなのだけれども、これは別に牡蠣だけに限ったことではなく、お肉等の場合でも起こりうること。ただ、水分の多い貝類では特にこれが顕著であり、調理上少々注意が必要だというわけですね。
原因が加熱のしすぎということは、つまるところ、重要なのはタイミングを見極めることになります。実際、牡蠣の食べ頃は”辻留”の辻嘉一氏の書かれた料理本にも、“牡蠣の身がキュッと縮みかけた瞬間”に引き揚げるのが良いとされています…が、これがまあ難しい。慣れないうちは牡蠣から目を離さずによ〜く見ながら調理するしかない。そもそも牡蠣に限らず貝類は長時間の煮込みには向かない食材なのです。
とはいえ、縮みにくくする方法がないわけではありませんので、今回はそれらをご紹介致しましょう。…が、その前に、もう少し詳しく縮む原理のお話をば…。
”浸透圧”と牡蠣
さて、浸透圧と云う言葉はご存知でしょうか。中学か高校の化学で出てくる用語ですね。実はこの浸透圧というのが牡蠣が縮んでしまうことと密接に関わっているのです。
浸透圧というのは厳密性は省いてごくごく簡単に言えば、半透膜(生物の細胞膜など)を隔てて異なった濃度の溶液がある場合に生じる圧力のことで、これにより溶媒が低濃度側から高濃度側に移るという現象が起こります。
牡蠣について具体的に言うと、牡蠣は海の生き物なので、その体液は海水の塩分濃度以下淡水の塩分濃度以上と考えられます。なので、それよりも濃度の低い水の中に入れれば、濃度の高い牡蠣の内部に水が入り込んできます。一方、より濃度の高い食塩水、極端に言えば濃度100%の食塩をまぶしておけば、水分が外に出て行くことになります。
調理する前に食材に塩をまぶす事で、余計な水分を出すのはお肉やお魚を使う際の定番の手法ですね。
さらに、実を言うと濃度だけでなく、温度もまた浸透圧に関係してきます。煮物などで”冷めるときに味がしみこむ”と言われるのは、温度の変化による浸透圧の逆転が示唆される現象ですね。
さて、これらの原理さえわかれば、牡蠣が縮むのを予防する方法は自ずと見えてきます。では、具体的な方法を見ていきましょう。
牡蠣を縮ませない方法は??
まず、大前提として牡蠣は汚れを落とすための下処理が必要になります。
下処理についてはこちらの記事で詳しく書いています。参考にどうぞ。
>>その一手間が大切!牡蠣の下処理(片栗粉を使った洗浄法)!!
方法0. 下処理中に極力水を吸わせない。
まず、”方法0″。こちらは下処理の過程での注意事項になります。
上記の通り、牡蠣を水につけていると浸透圧の関係で水を吸い込みます。水を吸い込むということはその分膨らむということです。そうなると、見た目にはぷっくりとして美味しそうな牡蠣になりますが、あくまでハリボテのようなもので煮たりフライにしたりする過程で水が出てしまいます。当然、その際にエキスや旨みも出て行ってしまうので良いことはありません。
それに水を吸った牡蠣の内部は通常時よりも濃度が下がります。つまり、調味料など濃度の高いものと合わせる過程で、浸透圧によって牡蠣の内部の水分やエキスが外に出やすくなってしまうわけです。もちろんある程度の時間を経て、内部の濃度がそれなりに均一になればの話ではありますが…。
どちらにせよ水を吸ってしまうと牡蠣が縮みやすくもなってしまうわけですね。なので、下処理の時点で牡蠣に極力水を吸わせないように気をつけて行う必要があります。
具体的には、下処理を手早く行い水につける時間を少なくすることと、なるべく塩水を使うことです。
とはいっても、もちろんほんの一瞬水に触れさせるだけでは水を吸うことはほとんどないので、慎重になりすぎる必要もないですし、時間のない時はいわゆる”ザル洗い”でも大丈夫です。
では、次に”方法1″、”方法2″についてです。この二つは下処理を終えた牡蠣に対して行う方法です。
方法1. 牡蠣を酒につける。
一つ目の方法は、下処理を終えた牡蠣を、日本酒などの酒に漬けておくことです。このお酒を使うという手法は、白子の下処理(茹でた白子を酒を入れた冷水にとって冷ます)などにも使われ、ふっくらとした仕上がりになります。
私は化学や農学が専門ではないので、この理由については本当のところはわかりませんが…。思うにアルコールの浸透性の高さから、お酒が牡蠣に十分に吸収されることでふっくらとした仕上がりになると思われます。この時、旨味成分なども一緒に染み込み、閉じ込めるのでしょうね。
ちなみに煮物の調理の際に、酒を入れると味が染みやすくなるのはこのアルコールの浸透性によります。
注意点としては、この場合 市販の料理酒を使ってしまうと、食塩含有のため浸透圧で牡蠣から水分やエキスが抜けてしまいますので気を付けましょう、というところですね。
方法2. 牡蠣の表面をコーティングする。
方法2はより物理的な方法です。
浸透圧による…といっても、結局のところは牡蠣の体表(細胞膜)を介しての水分の出入なわけですからね。つまり浸透圧のフィルターとして働く牡蠣の表面を何かしらでカバーしてしまえば良いのです。
では、具体的にどうするかというと…、牡蠣の表面を小麦粉や片栗粉、あるいは葛などをまぶしてでコーティングしてしまえば良いというわけです。その上でお湯に軽くくぐらせれば出来上がりです。個人的には葛がオススメですが、値段が少々お高いので片栗粉あたりが一般的でしょうか。
とにかくこのようにすれば牡蠣からエキスが漏れることを防げるのです。
ただ、この方法は先ほどの”方法1″と異なり、使える料理は限られてきます。また、コーティングによって水分が中から外へ出ていかないということは、逆に外から中に入っていくものも防いでしまうということです。なので、味を染ませたい料理の場合にはあまり適さない方法かもしれません。
牡蠣を縮ませないためには…まとめ
というわけで、今回は牡蠣がなるべく縮まないようにするための方法について書いてみました。
今回3(2?)通りの方法を書きましたが、世間(ネット上)では本記事の”方法2″で書いた小麦粉などでコーティングする方法以外はほとんど触れられていないようです。”方法1″に書いたお酒を使う方法が意外にも知られていなかったのは少し驚きでした。
ともかく、牡蠣を縮ませないようにするには、
“極力水を吸わせないようにする”、“お酒につける”、“粉で表面をコーティングする”
などの方法があります。どの方法も一長一短ありますので、料理に応じて使い分けてみてください。
他の方法をご存知の方は是非とも教えてくださいな。
牡蠣を使ったおすすめレシピ
牡蠣と大根おろしの葛煮餡かけ
>>作り方はこちら<<
牡蠣の辛煮
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